サイ・トゥオンブリー 名画の条件と価値

アーティスト

無題、1969 ローマ 油彩、ワックスクレヨン 70 x 87 cm

画像引用© Cy Twombly Foundation

何の先入観もなくこの絵をみて、これは名画だ!と思う人はどのくらいいるでしょう?多分一人もいないと思います。でも、これによく似たサイ・トゥオンブリーの作品が、7053万ドル (約87億円)で落札されています。

この絵(まずこれは絵でしょうか?)には基本的な絵画、名画の条件は全くあてはまりません。名画の条件とは 1)技法(デッサン力も含む) 2)構図 3)色彩(又は明暗対比) これらが高い水準により表現されているものが一般的に名画といわれます。一番分かりやすいのがレオナルド・ダヴィンチやベラスケスなどの巨匠による作品です。

モナリザ レオナルド・ダ・ヴィンチ 1503年 – 1519年頃 ルーブル美術館

ラス・メニーナス ディエゴ・ベラスケス 『ラス・メニーナス』(女官たち)(1656年) プラド美術館

これらの絵画には普通の人間なら一生かかってもマスターできないようなあらゆる絵画技法がこれでもか!というほど詰め込まれています。あまり絵に興味のない人が名画として認識するかどうかはおいても、誰が見ても上手い絵だと思うはずです。

しかし、サイ・トゥオンブリーの絵にはこれらの絵画の持つ要素は全くありません。技法、構図、色彩、どれについても何も考えずに描いているように見えます。

なので、何の基礎知識もなく、急にこの絵を見せられても名画として認識できる人間は世界に一人もいないと断言できます。*認識できる人はインサイダー(背景を知る人)でしょう

しかし、これは名画であると私は思います。なぜでしょう?

トゥオンブリーの作品を見るとき、旧来の絵の見方とは全く違った方法をとる必要があります。「技法、構図、色彩、の表現としての絵を見ない」これが大切になります。なぜならトゥオンブリーの作品はコンセプチュアル・アートであるからなのです。マルセル・デュシャンが言った「網膜的絵画の否定」がここでは行われています。それは、見た目の美しさのみを追求した芸術にはもはや意味はないという考えです。*すべてのアートはコンセプトを持っていますが、基本的に抽象絵画は具象絵画よりコンセプチュアルが強い傾向にあります

では、コンセプチュアル・アートとしての名作の基準は何でしょう?

これについて、はっきりとした意見を私は聞いたことがありません。人が何かを判断するときには明確な判断基準が必要だと思うのですが、基準を決めずにみんな判断しているのです。

私が思う判断基準とは 1)(表現やコンセプトの)斬新さ 2)(精神の)自由度 3)(作品や作者の)背景 です。単純明快ですね。

それでは解説してみましょう。 1)斬新さ、については、斬新ですよね、どうみても(笑)似た感じの作品を見たことがありません。あえて言うと、ルーチョ・フォンタナぐらいでしょうか?

「空間概念・期待」ルーチョ・フォンタナ 1965年|油彩、キャンバス|72×60cm 

まだ、この作品には構図や切り方に美しさを感じます。

2)(精神の)自由度、については、これを自分の作品として堂々と発表するには物凄い自信と精神の自由が必要になると思います。私には無理です(笑)

3)(作品や作者の)背景ーについては、彼は暗号制作者としてアメリカ陸軍に従軍したとされています。(美術学校に行っていたのになぜ暗号制作にかかわったのか?謎です)そのことが、eの羅列や度々出てくる文字や数字に神秘的な深みを与えています。

トゥオンブリーの解説はほとんどが難解で、何を言いたいのか分からないので(笑)自分なりに感じたことを解説してみました。

なお、黒板の落書きシリーズ⁉以外は絵画としても普通にいいと思います。バスキアなんかもかなり影響を受けていると思います。

ナポリ湾、1961 ローマ 油彩、油性ハウスペイント、ワックスクレヨン、鉛筆、キャンバス
241.8 x 298.6 cm
 

画像引用© Cy Twombly Foundation

波に囲まれたパフォスを去る (IV)、2009
ガエータ アクリル、キャンバス
267.4 x 212.3 cm

画像引用© Cy Twombly Foundation

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